今月の一皿

シェフ専用の熟成肉

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

6時を過ぎると、すっかり日が暮れだす季節になった。寂しい気持ちを街の温かい灯りが安らぎに変えてくれる。なんだか知らないが、こういう気分の時は繁華街でなく、近所の住宅街でゆっくりしたくなる。

東京都文京区の白山にある『ヴォーロ・コズィ』は、まさにそんなときにピッタリのイタリアンだ。大きな通りからちょっとだけ横道に入り小さな階段を上がると、クラシカルでアールヌーボー調の内装が目に入ってくる。ゆったりとしたその空間は、贅沢でゆとりを感じさせる。

鹿児島牛

9品からなる本日のコースの前菜は、シェフの西口大輔さんが最初に修業したヴェネツィアの魚介料理をイメージした一皿。ホタテ、アワビ、こだわりのポレンタ、ウナギ、タコなど、どれもこれも手が込んでいて個性があり、調理の方法はさまざまだが素材の旨みを十分に引き出している。

特にタコのソプレッサータ(煮こごり状のつまみ)は秀逸だ。日本のタコだとゼラチン質が弱いため、地中海から取り寄せたタコのゼラチン質を活かして圧縮させている。ほのかな塩味とタコのプリッとした食感でおいしさが増す。

前菜
ポレンタとタレッジョチーズのラヴィオリ

トリュフとチーズが香り高い「ポレンタとタレッジョチーズのラヴィオリ」は、オープン当初からの看板メニューの一つ。仕込みにとても時間をかける西口シェフ。それがこのラヴィオリにも表れている。

ミラノの星付きリストランテ『サドレル』で学んだこの手作りの一皿は、シンプルな中にもラヴィオリと上質なチーズの香り、そしてポレンタが絡み合い、深い味わいを出している。このあたりからワインを飲むペースが上がる(笑)。

外観
西口大輔さん

さて、今日のメインは「鹿児島牛」である。3年弱のお付き合いだという滋賀県南草津にある精肉店『サカエヤ』の店主、新保吉伸さんが、西口シェフの好みに合うように特別に仕立てた肉を仕入れている。

そのこだわりは、20日前後の、あまり熟成をキツくさせない赤身の肉。トスカーナの赤身肉をイメージしているそうだ。とても状態が良く、しっかりとした歯ごたえの中にもジューシーな力強さが感じられる肉だ。

店内

西口シェフはちょっとシャイだけど、ぜひ話しかけてみてほしい。その言葉の一つひとつに料理への愛をきっと感じることだろう。そして、フロアを切り盛りする素敵なマダムにも、ぜひ会いに行ってほしい。

Volo Cosi(ヴォーロ・コズィ)

西口シェフ専用に仕立てられた『サカエヤ』の熟成肉がメインでいただける「本日のコース」(11,550円/税込)は、紹介した「ヴェネツィア風魚介の前菜盛り合わせ」や「ポレンタとタレッジョチーズのラヴィオリ」も組み合わされた贅沢なコース。きっとお腹も心も満たされるはずだ。

住所:東京都文京区白山4-37-22

電話:03-5319-3351

営業時間:ランチ12:00~13:00(L.O.)、
ディナー18:00~20:00(L.O.)

定休日:毎週月曜、火曜のランチ

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2022年1&2月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「シェフ専用の熟成肉」。