今月の一皿

店の原点「フォアグラ大根」

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

東京・港区の六本木通りから横に入る。ゴルフ、グルメ、お酒、そして仕事にと、いろいろと教わった今は亡きアートディレクター・長友啓典先生のオフィスがあった場所だ。

数々の懐かしいことを思い出しながら少し小路を進んでいくと、ひっそりと『割烹 小田島』の灯が見えてくる。

学生時代の級友と、かつて何度かお邪魔した和食の名店だ。若かりし頃は、「有名店=良い店」だったが、今は違う。ご主人の人柄や料理に対する気持ち、もちろん素材の良さや独創性、いくつかの要素が重なり合って、素晴らしい料理と感性とが一致した店が、今の自分にとっての名店だ。

フォアグラ大根

今回ご縁をいただき、再び『小田島』の扉を開ける。その変わらぬ空気感から、安心感と懐かしさが自ずと込み上げてくる。この店の特筆すべき点は、なんといっても「日本料理には日本酒を」という当時の固定観念を覆し、「和食とワイン」という新しい食文化のパイオニアとなったことだろう。ムッシュこと、ご主人の小田島稔さんが、パリで最古といわれる日本料理店で1970年代にシェフを務めた関係からワインを勉強し、それがこの店の原点となっている。

看板
ワイン
メジマグロの漬けにヨーグルトを 入れた衣で揚げたフキノトウ

「今月の一皿」を飾る「フォアグラ大根」は、25歳の時にパリの『マキシム』で食べたフォアグラの味が忘れられず、和の形で表現した一品で、長い時間を経て、少しずつ進化しているこの店の定番中の定番だ。薄味に炊いた大根に、さっと火を入れたフォアグラを合わせる。ともすれば、重たいイメージだが、逆に出汁と一緒にあっさり、軽やかに食べられる。

合わせるワインはソーテルヌ。〝和食直球〞なのに、なぜか合う。みごとである。

店内
小田島 稔さん 小田島大祐さん

メジマグロの漬けにヨーグルトを入れた衣で揚げたフキノトウは、酸味とほろ苦さがほどよく混じり合い、こちらもみごとな組み合わせ。

新しいことにチャレンジしていく姿勢と、旬の素材を活かす和食ならではのスタイルがあるからこそ、いつの時代でも支持されているのだろう。息子の大祐さんとの息もぴったりで、家族経営ならではの和やかで優しさのある空間に、ほっとするのである。

ムッシュ出身地の秋田の稲庭うどんを最後に食べて、幸せな気分に浸りながら帰路に就いた。

割烹 小田島

メニューは定番のフォアグラ大根も含めた全8品のおまかせコース(8,800円/税込)。一皿ごとにペアリングされる世界各国のワインは、80種以上もある。一枚一枚ムッシュが手描きした折敷には、パリに滞在していた頃の思い出が描かれている。和食の店なのにどこか外国の風情が感じられるのも、『小田島』の魅力だ。

住所:東京都港区六本木7-18-24

電話:03-3401-3345

営業時間:月~金曜17:30~24:00、土曜11:30~15:00(L.O.13:30)

定休日:日曜・祝日

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2021年5 月号掲載時点のものです。

Recommends

会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ
会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ

電子ブック閲覧方法はこちら

下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「店の原点「フォアグラ大根」」。