今月の一皿
ご縁とご縁がつなぐ味

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

東京・千代田区神田に「出世不動尊」という、都内でも由緒ある不動尊がある。昭和20年に本堂は戦災で焼失したが、本尊は九州の天草に避難させていて無事だったという。現在の本堂は、昭和63年に完成。このおもしろい名前は、相撲取りが信心すれば出世する、という言い伝えから名づけられたともいわれている。大きなビルに挟まれた小さな本堂だが、相撲取りでなくとも出世を願い、一度は行ってみたい場所だ。

キンキの煮つけ

その不動尊のある出世不動通りと外堀通りの交差点のビルの地下に店を構えるのが、『割烹 ゐの上』だ。入り口には、今ではあまり耳にしない「関西料理」と書かれた看板がある。その訳は、先代が学んだのが関西料理だったから。長らく関西料理の店で修業していた先代のご主人が、60年前に独立した際にこの屋号にしたそうだ。関西料理独特の薄口醤油や調味料に、先代の出身地でもある高知県の食材を組み合わせて、現在の料理に行きついたそうだ。ご縁があって先代と同じ師匠の下で修業した今のご主人・井上幸洋さんも、その伝統を守りながら腕を振るっている。歴史を大切にするこういった姿が、とても好きだ。

カツオのたたき
じゅん菜酢

料理ももちろん間違いない。食材の旬にこだわり、ていねいに作られた料理は、五感で四季を感じさせる。名物の「キンキの煮つけ」は、オホーツクの一本釣りにこだわった、「釣キンキ」というブランドを使った一皿だ。35年~40年もののキンキはふっくらと煮つけられていて、甘辛さが抑えめで出汁と共に絶妙なバランスで旨みが引き出されている。身も弾力があり、プリップリでお酒がどんどん進む。

井上幸洋さん
店内

そして、高知県の代表料理で、この季節ならではの「カツオのたたき」。たっぷりのシソの葉とこれまた高知県の名産であるミョウガでいただくのが、『ゐの上』流である。目がスキッとするほどの爽やかなシソの葉とミョウガ、カツオとの相性は抜群だ。「カニの季節にもぜひ来てください!」と、井上さん。なんでもご縁があって北海道の興部町の沙留から旬の時季だけ仕入れるそうだ。なんだか今から楽しみである。

数年前には息子さんや娘さんも店に戻ってきた。“割烹”というと肩ひじを張りがちだが、こんな家族の笑顔の絶えない『ゐの上』ならば、きっと心地のよいひとときを演出してくれるだろう。

割烹 ゐの上

『ゐの上』の名物「キンキの煮付け」、シソの葉とミョウガがたっぷりの「カツオのたたき」、これからの季節にぴったりの「じゅん菜酢」は、四万十(しまんと)コース(14,000円/税・サ別)のコースから。
料理の内容と予算には気軽に応じてくれるので、予約時にご相談を。お昼の定食も充実。ぜひ、おすすめしたい。

住所:東京都千代田区内神田1-9-13 柿沼ビル地下1階

電話:03-3294-5559

営業時間:昼11:30〜14:00、夜17:00~22:00

定休日:土・日曜・祝日

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2020年8&9月号掲載時点のものです。

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