今月の一皿

慈しみの心を料理に

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

京都市にある光悦寺の「光悦垣」は、狭い空間を広く見せる、つまり、庭を広く見せるために遠近法を使った垣根だといわれている。実は、東京の青山通りから明治神宮外苑まで続く銀杏並木も、同じように遠近法を使って奥行きを持たせてあり、季節ごとに素晴らしい景観をつくっている。

その銀杏並木を背にしてとある路地を入るとすぐにたどり着くのが、『慈華itsuka』だ。初夏の気持ちいい空気を楽しみながら店内に入ると、きりっとした気持ちのいい空間が迎えてくれる。昨年の12月にオープンしたばかりの新店だが、料理長の田村亮介さんは大ベテラン。新たな地で、新たな料理に腕を振るっている。『慈華』とは、〝素材と人、そして料理を慈しむ〞というコンセプトでつけられた店名だが、〝日本と中国との融合〞という田村さんのこだわりも、同様に込められている。

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コースの最初は、「運気の上がる前菜盛り合わせ」。最近の流行りのように、小さなポーションの皿がたくさん、というスタイルでもいいところだが、オリジナルで作らせたという長方形の皿の下から上へと順番に食べることで気持ちも運気も上がるよう、昇り龍をイメージしているのだとか。
見た目も美しいが、フォアグラとナツメのテリーヌや青豆板醤のイカ和え、バイ貝のオリエンタルソース煮込み、よだれ鶏など、香りとともに甘みや辛味などが田村さんの計算のもと、一皿の中に収められている。

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そして、メインとなる「今月の一皿」は、「おぼろ鱧のすましスープ仕立て」。鱧の身、骨、そして皮から取った澄んだスープは繊細な中にも旨みをやさしく感じさせ、一口目から身体の奥に染み入っていく。そこに豆腐のように仕立てられた鱧のすり身が浮かべられ、一皿の中に鱧のすべてが凝縮されている。久々に余韻に浸れる料理に出合った。

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そして、おいしい料理にはおいしいお酒が欠かせない。堀口切子三代目の秀石さんにお願いしたという色とりどりの江戸切子から選んで、ぜひ紹興酒を楽しんでほしい。実は、お店のオリジナルでつくられたグラスが一つだけある。どれかは秘密。ぜひ田村さんに尋ねてみてほしい。
「慈しむ」とは「愛しむ」とも書く。田村さんによる上質のひとときは、きっと慈愛に包まれるものとなるだろう。

慈華itsuka

料理はいずれもコースの中の一皿。ランチは季節の食材おまかせコース6,000円とフカヒレを含む季節のおまかせコース10,000円、ディナーは季節の食材のおまかせコースで、15,000円(約8品)、23,000円(約9品)、30,000円(約10品)から選ぶことができる。*すべて税・サ抜き。

住所:東京都港区南青山2-14-15 五十嵐ビル2階

電話:03-3796-7835

営業時間:火~木曜17:30~23:00(L.O.21:00)、

金・土・日曜・祝日11:30~14:00(L.O.13:00)、18:00~23:00(L.O.21:00)

定休日:月曜

  • 新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2020年7月号掲載時点のものです。

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慈しみの心を料理に。今回は南青山の「慈華itsuka」をご紹介します。