今月の一皿

プロが厳選、マグロと和牛

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

「西麻布に完全紹介制の秘密の店がある」。若くして亡くなった仲良しの友人が、僕に紹介してくれた大切な店だ。なんと日本一と名高いマグロの仲卸『やま幸』と精肉卸『ヤザワミート』がタッグを組んでおもてなしをする『Mardegan(マーディガン)』。

紹介制というとハードルが高く、つてを探すのがなかなか大変だが、コロナも落ち着いてきた今、もっと多くのお客様に楽しんでほしいと、この9月から紹介制は完全撤廃となった。

小さく控えめな黒い扉を開けると、謎のフクロウが迎えてくれる。そして、その奥に広がるのはユニークな照明の色っぽい空間だ。小さなカウンターとテーブルは、どこか特別な雰囲気に満たされている。いつもはカウンター好きの僕だが、ここではなんだか個室で心地よい時間を過ごしたくなる。

たくさんメニューがあり、どれもこれも食べたくなる中から「今月の一皿」に選んだのは、「ヤザワミートの特選黒毛和牛 炭火焼き」だ。

今日は群馬県の「増田和牛」といって、通常27〜28ヵ月肥育して出荷のところを、36ヵ月も育てたこだわりの肉だ。「生体熟成させることで、コクのある肉の深みと旨みを出しています」とシェフの深瀬重一郎さん。このランプの赤身は90分かけて完璧な火入れを行っている。カリッと焼けた表面だが、中には旨みが完全に閉じ込められていて、ふんわり軟らかい。思わず言葉を失う味だ。

『マーディガン』がおもしろいのは、実はシェフがもう一人いるところだ。その平野良太さんとソムリエの木村智章さんの3人でバランスをとりながらお客様のスタイルに寄り添い、ある日はコースだったり、アラカルトだったり、あるいはつまみとワインだったりと、臨機応変にもてなしてくれる。

もう一つのおすすめの「やま幸 特選まぐろご飯」は見た目にも美しい一皿だ。今日は大間の一本釣りのマグロに、極上生ウニをトッピングしてもらった。マグロといえばすし飯が定番だが、主役のマグロの味を引き立てるために試行錯誤し、ササニシキとひとめぼれをブレンドして炊くことにたどり着いたそうだ。

こんなところにもこだわりを感じる。「本マグロといぶりがっこの冷製カッペリーニ」は意外や意外、組み合わせの相性がよく、食材の特徴を限りなく活かしていると感心する。まだまだ気になるメニューのオンパレードだ。極上ワインと合わせて、久しぶりの夜更かしを楽しみたい。

Mardegan

「ヤザワミートの特選黒毛和牛 炭火焼き」(100g~、5,600円~)は、その日の仕入れ具合でブランドが変わる。「本マグロといぶりがっこの冷製カッペリーニ」(1,800円)では、意外なほどのハーモニーを楽しんで。名物「やま幸 特選まぐろご飯」(4,800円)は、それだけでも贅沢だがイクラや白エビなどのトッピングのチョイスも。この日は極上生ウニ(4,300円)をトッピング。*すべて税込。

住所:東京都港区西麻布4-4-16 NISHIAZABU4416 1F

電話:03-5466-3939

営業時間:18:00~25:00

不定休

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2023年11月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「プロが厳選、マグロと和牛」。