今月の一皿

〝驚喜〞の生春巻き

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

アジアの食には、魔力がある。香港、中国、インドネシア、タイとアジアのさまざまな国を旅してきたが、どこでも伝統の料理や独自に工夫がなされた珍しい料理が楽しめて、帰国後はしばらくその味が頭から抜けきれず、東京でアジア料理をよく食べたものだ。が、なぜかベトナムとは縁がなく、いまだに訪れたことがない。

そんな僕に友人が紹介してくれたのが『アンディ』だ。長らくフレンチに携わってきた内藤千博シェフが創り出すのは、まさにモダン・ベトナム料理だ。

外苑前の裏通りの住宅街の中にある、4年目を迎えた『アンディ』は、肩ひじ張らないカジュアル感覚の店。だが、料理は極めてハイクオリティ。そして、遊び心も満載なのである。「鮑とブドウ、ブルーチーズの生春巻き」は、この季節の新メニュー。立派な鮑とブドウを大胆に使った生春巻きは、大きく口を開けてかぶりついてほしい。

鮑とブドウ、ブルーチーズの生春巻き

鮑とマスカットのほか、生春巻きの中心にはドライにしたブドウとジャガイモのマリネが入っていて、それぞれの食材の味が調和している。ギュッと噛んだときに鮑の肝ソースとブルーチーズが混ざり合うテイストは、初めての感覚だ。

「現地にもなく、どこにもない。でも、ベトナム料理であり、お客様に驚いて、喜んでもらえる料理をいつも考えています」と、内藤シェフが笑って話してくれた。

東南アジアやベトナムをベースにし、日本の豊かな旬の食材で料理を創っていく。繊細かつ大胆な内藤シェフの料理は、どれも素晴らしい。「ホロホロ鶏の炭火焼き」は「アジアによくあるチキンライスですよ」と内藤シェフ。

内藤千博さん
ホロホロ鶏の炭火焼き

ライスなんてどこにあるのかと思ったら、ジャスミンライスで作ったソースが発酵ハラペーニョソースと一緒に添えてある。

炭火で仕上げた弾力のあるホロホロ鶏が、このソースとまたよくマッチする。お茶の葉を使った定番のサラダは、ナッツやフルーツをふんだんに用いたとても繊細で未体験ゾーンの料理だ。

ワイン
お茶の葉を使った定番のサラダ

初めての訪問にはモダン・ベトナム料理の魅力が詰まっているコースメニューがおすすめだが、気になる料理をあれこれとアラカルトで注文するのもよい。

店内

オーナーソムリエの大越基裕氏がセレクトしたワインをボトルで楽しむのもよし、日本酒も取り入れたボーダーレスなペアリングもぜひ、お試しいただきたい。

アンディ(Ăn Đi)

ここで紹介した料理が組み込まれたコースは8,800円(税込)。もちろんアラカルトでもオーダー可能。世界18か国のワインのほか、日本酒も各種そろっているので、一皿ひと皿に合わせるペアリングでいただくのがおすすめだ。

住所:東京都渋谷区神宮前3-42-12 1F

電話:03-6447-5447

営業時間:17:30 ~ 21:00(L.O.)
ランチ(土・日曜のみ)12:00~13:30(L.O.)

定休日:月曜

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2021年11月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「〝驚喜〞の生春巻き」。