今月の一皿

夏の香りのパスタ

写真・岡村昌宏 文・下谷友康

Photographs by Masahiro OKAMURA(Crossover)

Text by Tomoyasu SHITAYA

かなり昔、イタリア・ミラノからスペイン・アンダルシア地方やマヨルカ島を半月くらいかけて旅をした。日本でまだ珍しかったスペイン料理の美味しさに目覚めたのは、その時だ。素材の力を徹底的に活かし、オリーブオイルと塩、ニンニクをうまく使うこと。つまり、シンプルな味付けがベストだと知った。

当時は田舎のレストランには英語のメニューすらなく、ようやく注文できた料理が全部オリーブだったりと珍道中だったが、イタリア料理と同じく、すぐに虜になった。

『TXOKO(チョコ)』のオーナーシェフの関口晴朗さんは、なんとイタリアとスペインの両国で修業をした経験があるということで、料理をいただく前からお互いの思い出話ですっかり盛り上がってしまった。カウンターメインの店内は、こぢんまりとしていてシェフとの距離も近い。初めてでも、イタリア・スペインの文化や食材の話などで、楽しく時間が過ぎていくことは間違いない。

関口晴朗さん

テーブルにさりげなく置かれてあるメニューには、食材の名前が書いてあるだけ。だから、どんな料理に仕上がるのか、関口さんの調理の過程を目の前で見ているのが楽しい。

その中から「今月の一皿」に選んだのは、ヤングコーン。これが関口さんの手にかかり、「自家製タリオリーニ ヤングコーンとサマートリュフ」となって現れた。「初夏のヤングコーンとサマートリュフのコンビを楽しんでほしい」と、関口さん。卵黄をしっかりと練りこんだタリオリーニはエッジが効いて、卵の味をしっかりと感じさせる。ヤングコーンは皮やヒゲも一緒に丸ごと使われているので、様々な食感がおもしろい。

自家製タリオリ ーニ ヤングコーンとサマートリュフ

野菜が好きという関口さんのもう一つのおすすめの料理は、「新玉ねぎを使ったストゥファート」。コトコトと丸ごと蒸し煮した新玉ねぎの上に、北海道の塩水雲丹がアクセントになった優しい味だ。

新玉ねぎを使ったストゥファート

こうした前菜だけで5品ほど、少しずつおつまみのような構成になっているコースは、一皿ごとにワインとのペアリングも楽しめるので、ワイン好きには堪らない。締めくくりでは、名物のチーズケーキが待って

いる。これも絶品だ。

前菜
店内

ところで店名の『TXOKO』は、バスク地方でいうところの美食倶楽部のような意味らしい。お客様に、料理を通じて賑やかに過ごしてほしいという関口さんの願いが込められている。ここはまさに他人に知られ

たくない、食を楽しむための大人の秘密基地だ。

TXOKO(チョコ)

5~6皿の前菜とメインやパスタなど、その日の食材によって関口さんが組み立てる季節のおまかせコース(13,200円~)は、次に何が出てくるのかワクワクの連続だ。デザートのシェフお得意のチーズケーキは、ホールでテイクアウトもできる(3,240円/要予約)

*価格は共に税込です。

住所:東京都文京区水道2-19-14

電話:03-6801-6921

営業時間:18:00~23:00

定休日:不定休

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2021年7月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「夏の香りのパスタ」。