今月の一皿

ひと味違う、鉄火巻き

写真・長野陽一 文・下谷友康

Photographs by Yoichi NAGANO

Text by Tomoyasu SHITAYA

「借りて住みたい街ランキング2023(首都圏版)」の第1位に選ばれた本厚木。都心からほどよい距離感ながら、箱根や伊豆などの観光地にも近い、学生にも家族にも優しい街だ。この地に去年オープンした鮨店がある。『鮨たかよし』だ。

ちょっと失礼だが、メイン通りから少し入ったところの門構えは郊外の街らしくなく、高級感が漂う。実は本厚木には大きな会社がいくつもあることから、家族連れや友人同士だけにとどまらず、ビジネス利用でのニーズも多いのだろう。

扉を開けて店に入ると、まだ新しいL字型の大きなカウンターが目に飛び込んでくる。その奥には個室もあり、使い勝手がよさそうだ。鮨といえば、昨今はコース、おまかせ、一斉スタートなど、昔ながらの楽しみ方と違う方向へと進んでいる気がする。好きな時に、好きなだけ、好きなものを、そして気の合うメンバーで。これが鮨の一番おいしい食べ方だと僕は思う。

『鮨たかよし』には、もちろんおまかせのコースもあるが、こちらの好きな食べ方に寄り添ってくれるのがうれしい。いくつかの店で長年修業した大将の木川則明さんは物静かで真面目な印象だが、実は話すととてもおもしろく、カブトムシ取りの名人でもある(笑)。

「今月の一皿」は「鉄火巻き」。最初に木川さんの鉄火巻きを食べた時から、「ん? これはひと味違うな!」と感じた。鉄火といってもトロ的な赤身そのものが入っているのだ。海苔の香りとも、赤酢のシャリとも相性抜群だ。そんな訳で、いつもつまみの途中でお願いして、またつまみに戻るスタイルにしている。

「川崎の市場で毎日よいものを仕入れてきます」と木川さん。川崎には、豊洲市場には入らない小田原近海のネタもあるそうだ。これは本厚木のアドバンテージだ。この日は自家製のアン肝や、ハマグリ、北海道から仕入れたカニなど、豪勢なつまみを楽しませてもらった。握りのシャリは少し小ぶり、ネタも季節を重視した魚介が中心なところにも、木川さんの誠実さが表れている。

ところで『鮨たかよし』は、予約の時に食べたいものをお願いするといい。その日に合わせて市場から見繕ってきてくれるからだ。こんなパーソナルな対応をしてもらえるのもうれしいかぎりだ。女将が独自にチョイスした日本酒のラインナップも、こだわりがあって楽しい。本厚木という場所柄、旅行やゴルフの帰りに寄り道してはどうだろう。きっとリピートすること間違いない。

鮨たかよし

どちらかといえば脇役的な存在の「鉄火巻き」(1,320円)も、ここでは主役並みにおいしくいただける。おつまみには旬な食材やその日のおすすめ料理の3点セット(1,650円)も。おまかせコース(刺身、握り、お椀、デザート付き)には、「雅」11,000円と「舞」16,500円がある。*すべて税込・サービス料別。

住所:神奈川県厚木市中町3-17-26

電話:046-294-0106

営業時間:17:00~22:00

定休日:日・月曜・祝日

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2023年12月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「ひと味違う、鉄火巻き」。