今月の一皿

シェフの前だから
『岡田前』

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

東京・港区麻布十番の商店街。コロナ禍で恒例のお祭りもなく閑散としていたが、段々と活気が戻ってきたようだ。最近では、人通りの多さがなんだか懐かしく不思議な感覚だ。

その商店街に、ちょうど1年前にまた一つ新しいお店が誕生した。敬愛する先輩に連れていかれた『麻布十番 肉割烹 岡田前』という変わった名前のこのお店、入口の前に“バス停”があるからすぐわかる。

標識には「岡田前」とちゃんと書いてあり、オーナーシェフの岡田賢一郎さんの遊び心が伝わってくる。店内には左右に8名ずつのカウンター。そして、中央には立派なチャコールオーブンがドーンと構えている。

たん刺しトリュフ

さて、「今月の一皿」に選んだのは、「たん刺しトリュフ」だ。岡田さんが立派な神戸牛のタンを捌きながら色々と説明してくれる。タンモトは霜降り部分をステーキに、タンナカは刺身に、そしてタンサキはカレーにするそうだ。

「たん刺しトリュフ」は、スライスしたタンナカの上にフランス・ペリゴール産の黒トリュフをこれでもかと載せる。黒トリュフの高貴な香りとフレッシュなタンナカとの相性が素晴らしい。まずは何もつけずに肉そのものをじっくりと味わう。次に塩やワサビをつけると、また一段と肉の風味が感じられる。

「メンチカツのウニのせ」は、神戸牛と松阪牛を合わせた肉で作るメンチカツの上に、ここでもたっぷりのウニを。根室のねっとりとしたウニの甘みと肉のパワーが共存する一皿は、ぜひ手づかみで食べてほしい。

メンチカツのウニのせ
ステーキ

いつもお客様が何を求めているかを考える岡田さんは、流行は自ら作るもの、それが真似されることで、初めてパイオニアになれると話してくれた。そんな言葉からは、美味しく肉を提供する使命感が感じられる。

炭だけの熱源で焼き上げるステーキがメインだが、その前にたくさんの前菜が提供される。「ユッケキャビア丼」や「イクラのコンソメ」など、どれもメイン料理となりうる豪華コースなので、朝昼ともに絶食するくらいの心構えで訪問してほしい。

岡田賢一郎さん
店内

店名は、前職で「岡田さんの目の前」を指定するお客様が多かったので、『岡田前』となったそうだ。楽しい話とためになる話、そしてユニークな肉料理を、ちょっとシャイな岡田さんの前で堪能してほしい。

麻布十番 肉割烹 岡田前

岡田さんの技とトークが楽しめる『岡田前』のカウンターは16席。17:00~、18:30~、20:00~の3部制で、おまかせコースは28,000円(税込・サービス料別)。店の前にあるバス停の看板は、岡田さんのユーモアの表れ。ぜひチェックされたい。

住所:東京都港区麻布十番1-5-23 ルネ麻布十番ビル B1

電話:03-3478-0338

営業時間:17:00~、18:30~、20:00~の3部制

定休日:日曜

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2022年3月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「シェフの前だから『岡田前』」。