今月の一皿

居心地のよい
‟シェフズテーブル”

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

個人的には、ワイワイガヤガヤと楽しく食事することも好きだが、しっぽりと語り合う食事も同じくらいに好きだ。こんなわがままにピッタリのシチュエーションを与えてくれるのが、『RINASCIMENTO(リナシメント)』のカウンターだ。
カウンター席といっても、実はそこは〝シェフズテーブル〞。目の前で、小川慎二シェフとスタッフがきびきびと働く。時に気になる料理があり、ちょっとだけ尋ねると、レシピも教えてくれたりして、一緒になって会話が弾む。でも次の瞬間、さりげなくこちら側の会話だけを大事にしてくれて、静かな時間が流れたりもする。僕にとってこの〝シェフズテーブル〞は、特別な場所だ。

短 角牛・幸福豚・ボロネーゼ・マッシ ュルーム添え

さて、このお店、とにかく目立たない。駅から微妙に離れているし、看板もない。初めて訪れた時は、思わず通り過ぎてしまった。その理由はお客様に目的意識を持って来てほしいからだそうで、レストランに行くわくわく感、帰りの余韻、そういうものすべてを感じるところから演出をしたかったからだそうだ。だから、お店での自由度は高い。プライベートでも接待でも、アラカルトでもコースでも、個室でもカウンターでも、メインフロアでも大丈夫。好きなものを好きなだけ……。最近ありがちなコース一辺倒でないところも、とてもいい。

前菜の盛り合わせ
店内

「今月の一皿」は、シェフ渾身の「短角牛・幸福豚・ボロネーゼ・マッシュルーム添え」。イタリアのボローニャで修業中に教わった、地元で人気の肉々しいソースのパスタをアレンジしたものだが、なんとそのアレンジとは、すき焼きへのオマージュ。
牛と豚を合わせた肉のソースに燻製の卵黄を混ぜこみ、甘みのある味をつくり出している。フレッシュマッシュルームとパルミジャーノレッジャーノが仕上げに削り掛けられた一皿は、パスタなのに目を閉じるとすき焼きが瞼に浮かぶかもしれない。

小川慎二さん
『赤崎牧場』赤崎牛ロースト

そして、驚きのアペタイザーは、「インサラティッシマ・リナシメント」という30品もの料理が載った前菜の盛り合わせ。全国の生産者から直接手に入れた素材を手間暇かけてアレンジする、まるで宝石箱のような一皿だ。
30品の内容を説明するリストの上から順番に食べてほしいそうだが、お皿にはバラバラに配置されている。探し出して食べるのが、また楽しいひと時だ。「ここは楽園だね」、そんな言葉が似合う店だ。

RINASCIMENTO

「インサラティッシマ・リナシメント」(4,500円)と小川シェフのスペシャリテ「スパゲッティ『二戸』短角牛『ふくどめ小牧場』幸福豚ボロネーゼ」(2,000円)は、初めて訪れた時は必ずオーダーしたい。
メインディッシュには「『赤崎牧場』赤崎牛ロースト」(4,200円/写真右)がイチオシとのこと。*価格はすべて税抜きです。

住所:東京都目黒区下目黒2-23-2 1F

電話:03-6420-3623

営業時間:ランチ12:00~13:30(L.O.)、ディナー18:00~21:30(L.O.)

定休日:日曜と月曜ランチ

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2020年10月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「居心地のよい‟シェフズテーブル‟」。