今月の一皿

ぜーんぶ丸ごと、いただきます

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

新緑の季節がやってきた。今年は例年にないほど桜の開花も早く、暖かい日が続いている。そんな陽気の中、気持ちよく散歩をしていると、たまに新しいレストランがふっと目に留まることがある。西麻布の『草片cusavilla』も、そんなふうに偶然に見つけた店だ。

ここは、野菜がメインのイタリアン。オーナーシェフの中東俊文さんは、私の母と同じ京都出身ということもあり、初めての訪問でも大きなカウンター越しにすぐに打ち解けることができた。

中東さんと話していると、京料理のDNAがしっかりと組み込まれているのが感じられる。それもそのはず、実はお父様は超がつく有名な京都の老舗『草喰なかひがし』を経営されている。最初はそんなこともまったく知らずにいたのだが、ふむふむと頷いてしまうのもそのはずで、食べる前から期待感に包まれてしまった。

「食材は余らせないで、全部食べてもらいます。それでも余ったものは自分の畑に戻しています」と中東さん。ご自身の畑に自生するぺんぺん草やクレソン、ヨモギ、わさび菜など、その時に摘んだ野菜でつくる一品が「ただのサラダ」だ。

完熟梅でつくった自家製のドレッシングが、「ただの野菜」の味を優しく引き立てている。自らが畑に行き、山に入り、東京で地産地消を実践する。そんな考え方に共感して訪れるお客様も多いと聞いた。

ちょうどこの号が出る頃は、畑の近くの秋川渓谷のヤマメが旬を迎えるということで、「秋川の天然ヤマメとのらぼう菜」を「今月の一皿」に選んだ。

3月が解禁のヤマメ。寒い冬を越えた身はとても旨みがあり、しっとりとしていて味が濃く、川魚独特の風味が素晴らしい。土に見立てたブラックオリーブ、香ばしい骨や“のらぼう菜”のほろ苦さが良いアクセントになっている。食材を余らせることなく皿の上に並べていく飾り付けも芸術的だ。

「サイフォンのミネストローネ」は、20種類以上の季節の野菜を生ハムの骨でとったスープに加える。サイフォンを使って客の目の前でスープに仕立てるというプレゼンテーションはとても楽しい。訪れる度に野菜が変わるので、微妙に味が違うのもおもしろい。

西麻布という東京の真ん中で、中東さんが摘み取った四季の野菜を取り入れた料理はどれも身体に優しい。料理人一家である中東家のDNAを感じながら、大地に恩返しをしているような体験だ。

草片
cusavilla

紹介した料理はすべてお任せコースの中の一皿。コースは「草片cusavillaコース」9,500円と「地野菜と旬の食材で愉しむコース」12,500円の2種類を用意。前者には5,500円~後者には7,500円~のドリンク・ペアリングコースもある。金曜と土曜日はランチ営業も(9,500円と3,500円の2コース)。*価格はすべて税・サ込です。

住所:東京都港区西麻布4-4-16 NISHIAZABU4416 B1F

電話:03-5467-0560

営業時間:ランチ(金・土曜)12:00~、ディナー17:00~20:00(L.0.)

定休日:日曜

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2023年5月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「ぜーんぶ丸ごと、いただきます」。