今月の一皿

はんなりと京の味

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

「ほっこり、いけず、はんなり」など、上品で柔らかな口調が耳にやさしい雅な京ことば。聞いているだけで、どこか華やかで安らかな気持ちになってくる。

『京の馳走 はんなりや』は、東京・中央区日本橋の『日本橋三越本店』の近くにある。小さな路地に面した小さな階段を上がって暖簾をくぐると、「おこしやす」との声が聞こえてくる。一歩入った店内には、京都そのものの雰囲気がある。カウンターの上にはおばんざいの大鉢と万願寺唐辛子や海老芋、京茄子といった京都の野菜から、旬の岩牡蠣やそら豆などの食材がずらりと並ぶ。使い勝手のよい個室やテーブル席もあるが、ここではご主人・松上知之さんの目の前のカウンターが特等席だ。

丹波猪 九条葱 みぞれ仕立て

話は変わるが、私の母は京都生まれの京都育ち。私が生まれたのは東京だが、食卓には京都の料理が並ぶことが多かった。すき焼きはもちろん割り下を使わないし、正月のお雑煮は白みその丸餅だった。子供ながらに、関東と関西の食文化の違いを楽しんでいた記憶がある。

おばんざい取り合わせ
先付け

さて、松上さんは祇園で長らく修業をした後に上京。その後、ここ日本橋で自分の店を開いて今年で23年目となる。ちりめんじゃこや湯葉などはすべて手作り。昆布とカツオを中心とした出汁は味を濃いめにして、風味豊かで上品な香りにしている。

「丹波猪 九条葱 みぞれ仕立て」で使用する猪肉は、マタギが血抜きをした新鮮なものが京都から直送される。分厚いお揚げも九条葱も、もちろん京都から。臭みの全くない脂の乗った冬が旬の猪肉は、出汁とのバランスがみごとだ。

「おばんざい取り合わせ」は、まさに京都のおかずといったところか。

牛肉牛蒡しぐれや、糸こんにゃく山椒煮、大根葉とじゃこなど、11種類が並ぶお皿は見た目にとても綺麗で、お酒のあてとしても最高だ。そのほかのメニューも盛りだくさんで、刺身から煮物、揚げ物、焼き物、そして、おばんざいとなんでもある。たっぷり食べてもいいし、お酒を飲みながらちびちびと、でもいいが、ここでは東西の食文化の違いも松上さんと一緒に楽しんでみたい。

店内
松上知之さん
そのほかのメニュー

松上さんの信条は、「お客様の好みに合わせて、喜んでいただけるように対応すること」だという。最近ではテイクアウトも行っているので、次回はちょっとわがままを言ってみようかと思う(笑)。そして、実はランチもおすすめで、一度食べたら最後、通い詰めてしまう「だし巻き」が絶品だ。

京の馳走 はんなりや

この時季イチオシの「丹波猪 九条葱 みぞれ仕立て」(1,870円)には、京都人が大好きな山椒をたっぷりかけて。季節ごとに内容が変わるおばんざいの盛り合わせ(1,540円)と先付け(1,100円~)を手始めに、多彩なメニューから好みのつまみを選びたい。

*価格は税込です。

住所:東京都中央区日本橋室町1-11-15 UNOビル2F

電話:03-3245-1233

営業時間:昼11:30~14:00(L.O.13:30)、夜17:30~22:30(L.O.22:00)

定休日:日曜・祝日(土曜は夜のみ、月2回不定休)

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2021年4月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「はんなりと京の味」。