今月の一皿

ワクワクが続く鎌倉の夜

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

海と山に囲まれた、自然豊かな鎌倉。東京から近いにもかかわらず、ちょっと小旅行に来た気分になれる特別な街だ。鎌倉大仏や鶴岡八幡宮を訪れたり、四季折々の花を楽しんだり。もちろん、素敵なレストランもたくさんある。鎌倉在住の古くからの友人に「わざわざ鎌倉まで来る価値があるから!」と誘われて伺ったのが、『イチリンハナレ』だ。

鎌倉駅から散歩しながら住宅街を進む。車も入れないくらいの路地のひときわ目立つ門をくぐる。素晴らしい日本家屋を改装した店内は、玄関から左右に分かれている。今回は、右側の大きな一枚板のカウンターに座った。

47年前に建てられたこの純和風の家は、大の日本贔屓のフランス人外交官夫妻の家だったそうだ。この家の話で誌面が埋め尽くされるほどなので、ここまでにしておくが、ぜひ少し早めに到着して、見学することをお薦めする。

さて、メニューには素材しか記されていない。だからそれがどう料理されるのか、とても楽しみだ。「四川料理は辛いイメージですが、私は香りに重きを置いて料理をしています」と齋藤宏文料理長。コースの料理すべてを「今月の一皿」にしたいが、その中からやっぱり同店の象徴ともいうべき「丹波髙坂地鶏、につける餃子、からのめん」という一風変わったものにした。別名「よだれ鶏三段活用」とも(笑)。

季節により微妙に変化する丹波髙坂の鶏肉は、弾力がありつつやわらかい。まずはタレと共に肉をひと口。そして、厚めの皮の餃子にタレを絡めてもうひと口。もちもち感が食欲をそそる。さらに山椒の効いた麺を絡めて。麺の香りが最高だ。三段活用をループしたくなるが、ここは我慢して次の一品へ。

「四川唐辛子と車海老の香り炒め」は、ほどよい辛さと香りが特徴で海老は殻ごとバリバリいただいた。辛さの調整はできるが、後を引くくらいのほうが美味しい。メニューはアスパラガス、アオリイカ、甘海老、新ジャガイモなどが続き、この後どうなっていくのかワクワクだ。

焼きフカヒレは白湯スープも絶品で、フカヒレの焼き目と相まって高貴な味だし、アオリイカもとてもやわらかく仕上げられていて、甘さを感じる。シェフの引き出しの多さと底知れぬ実力を感じるラインナップだ。

ワインなどを合わせるのが今風かもしれないが、僕は中華料理には王道の老酒が好きだ。なんと「中国酒テイスティングフライト」という飲み比べがあり、ぜひトライしてほしい。カラメルが入っていないお酒やキビをスモークして混ぜてある紹興酒もあり、なんとも味がある。秘密はまだまだある。いざ鎌倉へ。

イチリンハナレ

料理はすべて「季節のおまかせコース」からの一皿。平日ランチは8,800円と16,500円の2種類のコースを(土日・祝日のランチはディナーメニューのみ)、ディナーは16,500円のコースを提供している。「中国酒テイスティングフライト」は、5種類が飲み比べられる(2,750円)。*価格はすべて税込・サービス料別です。

住所:神奈川県鎌倉市扇ガ谷2-17-6

電話:0467-84-7530

営業時間:ランチ11:30~14:30(12:00L.O.)、ディナー17:30~22:30(20:00L.O.)

不定休

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2023年6月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「ワクワクが続く鎌倉の夜」。