今月の一皿

うなぎニューワールド

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

東京・港区の麻布十番。いつも賑やかな商店街から一本裏路地に入っただけで、この辺りは急に静かになる。
そしてなぜか知らないけれど、こういう目立たないところにいい店がある。鰻好きの友人から教えてもらった『うなぎ 時任』も、通り過ぎてしまいそうな 小さな階段を上ったところが入口だ。

鰻パイ

小さいながらも凛とした佇まいの入口の暖簾をくぐる。「普通の鰻屋さんとは違うよ」と、何回も念を押されたが、百聞は一見にしかず、だ。
すると、店主の時任恵司さんが笑顔で迎えてくれた。
時任さん、別名は〝ウナギクリエーター〞だという。有名店で長らく修業した後、なんとフランス料理を研究し続け、〝鰻とフレンチの融合〞を試みている。鰻の可能性をこれからの若者にも知ってもらいたい、新しい食べ方でおもしろいことや夢をつくりたい、そんな想いで新しいチャレンジをしていることが伝わってくる。
奇を衒うのではなく、しっかりとした準備や素材の相性の研究、そして何より「よいものをおいしく食べてほしい」という熱意がそこにはしっかりとあるのである。

鰻バーガー
鰻重

「今月の一皿」に選んだのは「鰻パイ」。
フランスの「マトロート」という鰻の伝統料理をアレンジした一品だ。
フカフカのパイに包まれているのは、鰻の赤ワイン煮込みとフォアグラだ。
ナイフで切れ目を入れると、鰻にポルト酒を使った赤ワインソースが絡む。鰻とフォアグラの相性は驚くほど抜群だ。

「日本の鰻職人の下準備や技術は素晴らしいものがあります。だからこそ自分たちの世代でも新しい価値をつくり出していきたい」と時任さん。技術は経験で上達するが、その先の〝おいしく鰻を提供する気持ち〞が大切で、その想いが強ければ強いほどお客様に喜んでもらえるはずと教えてくれた。この想いはすべてのことに共通する大切なことと、今更ながら改めて学ばせてもらった。
「鰻バーガー」もここにしかないものだ。トマトと鰻の相性は驚くほどよく、こうして手で食べるのも初めて。
こういう新しい経験はいつだってワクワク楽しい。

時任恵司さん
店内
看板

定番の「鰻重」は砂時計で3分待ってから蓋を開けると、上品な香りと共にみごとな鰻が姿を現す。香ばしくフワフワな鰻と個人的に好みのしっかりした炊き立てのご飯は、この上ない幸せだ。
〝鰻愛〞に包まれに、ぜひ『時任へ』。

うなぎ 時任

ここで紹介した料理は、ランチコース(13, 200円)、夜の定番コース(19, 800円)もしくは季節の特別コース(30,800円)でいただける。ランチでは鰻重(5,940円)の用意もある。ランチは売り切れ次第終了なので、早めの来店がおすすめ。カウンターのほか個室もあり、お祝いなど特別な日に貸し切りも。
*価格はすべて税込です。

住所:東京都港区麻布十番2-5-11 AZABU MAISON201
電話:03-6812-9671
営業時間:ランチ(木~土曜)12:00~14:00(売り切れ次第終了)、ディナー18:00~22:00
定休日:日曜および不定休

  • 新型コロナウイルスの感染症の影響により、営業時間・定休日が記載と異なる場合があります。ご来店時は事前に店舗にご確認ください。

*掲載情報は2020年12月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「うなぎニューワールド」。