今月の一皿

銀座老舗、憧れのカツ丼

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

寒くなってくると、丼ものや鍋が無性に食べたくなる。ついこの間までは、冷やし中華や素麺を食べていたのに不思議だ。

東京の銀座は次々と新しい店が誕生する街だが、老舗もしっかりと頑張っている。その中でも6丁目すずらん通りに面する「交詢ビル」のすぐ近く、といえば真っ先に思い浮かぶのが、昭和2年創業の『とんかつ銀座梅林』だ。今回はこの連載186回目にして、おそらく初めての「丼もの」を紹介したい。

創業者の澁谷信勝氏は従来のとんかつにはなかった「ひと口カツ」や、とんかつに合った独自の「中濃ソース」を考案するなど、アイデアマンであったと聞く。うれしいことに、そのDNAが脈々と現在にも受け継がれ、伝統の中にもちょっとした新しさや気配りが感じられる。

かならず食べてほしい一皿は、もちろん「スペシャルカツ丼」だ。まずその見た目の美しさに圧倒される。元気をつけたいときには最高の一皿だ。といっても、ここのカツ丼はとても繊細なのである。卵でとじたカツの上にさらに半熟卵がのっている。まずは半熟卵を崩さずに、一切れ、二切れとカツをいただく。

ちょっとだけ甘めのタレが染み込んでいて抜群にうまい。少し食べ進めたら今度は卵を割ってみよう。とろ~っと黄身が流れ出したところにカツをからめて口に運ぶ。こんな美味しいカツ丼は食べたことがない!

コクのあるタレはもちろんオリジナルで秘伝の味だ。薬剤師だった信勝氏がその経験と知識を活かして開発したらしく、こだわりが半端じゃない。ジューシーな肉は、鹿児島の黒豚など、美味しいものをいつでも提供できるように厳選している。

さて、カツ丼といえばやはりご飯が大事。相性のよい米を探し求めた結果、香り豊かな山形産の「つや姫」にたどり着いたそうだ。お替わりは自由だが、食べ過ぎに注意(笑)。

代表取締役社長の澁谷昌也さんは自らも食いしん坊。メニューはそれだからこそのラインナップだ。スペシャルカツ丼のことを書くだけで誌面が埋まりそうだが、ぜひもう一皿を紹介したい。それは「ヒレカツサンド」。店内で食べてもいいのだが、お土産でテイクアウトもできる。カツとパンにしっかりと染み込んだソースと衣が最高、それでいてまったく胃もたれしない。これを持参すれば、その場のヒーローになれること間違いなしだ。

愛され続ける老舗には、ちゃんと理由があるのだ。

とんかつ銀座梅林

長年のファンも多い「スペシャルカツ丼」(2,200円)は、ぜひ試していただきたいオススメの一皿。バラエティ豊かなメニューには目移りしてしまうが、単品でのオーダーも可能なのでエビフライや串カツ、メンチカツなども一緒に楽しみたい。テイクアウトの「ヒレカツサンド」(4切れ、1,000円)も、贈る相手の喜ぶ顔が目に浮かぶほどの絶品だ。*共に税込。

住所:東京都中央区銀座7-8-1 銀座梅林ビル地下1階

電話:03-3571-0350

営業時間:11:30~20:00(L.O.)

年中無休(1月1日を除く)

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2024年1&2月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「銀座老舗、憧れのカツ丼」。