今月の一皿
秘密という名のレストラン

写真・永田忠彦 文・下谷友康

Photographs by Tadahiko NAGATA

Text by Tomoyasu SHITAYA

二十騎町という、なんとも奇妙な地名がある。半世紀以上東京に住んでいるが、初めて聞いた地名だった。最寄り駅は、牛込神楽坂。そこからちょっと歩く。周囲は住宅だけ。その小さな看板を見落とすと、永久に見つからなさそうな本当に秘密のレストラン『SECRETO』(セクレト:スペイン語で秘密の意)。店のドアの鍵が開く18時40分から、“秘密の劇場”がスタートする。

ウェイティングバーで待つこと20分。客全員がそろったところで19時ちょうどに秘密の廊下を通り、奥の部屋に通される。黒を基調とした薄暗い空間の中のカウンターが、メインダイニングだ。まずは挨拶代わりのジントニック。オーナーシェフの薮中章禎さんがスペインで修業中に出合ったジンを使ったものだとか。スッキリとした甘さが漂うジントニックは、ディナーのスタートを飾るのに相応(ふさわ)しい。

フォアグラ・フレンチトースト

さて、まずは「秘密のハート」というハート型の謎の物体の登場だ。シェフの軽快な説明によると、「洋ナシとミカンとユズのジュース」を、赤いカカオバターで包んでいるとのこと。さっぱり訳が分からないまま口に入れる。カチッとハートを割ると、口の中にジュワッとジュースが広がる。おもわず「うわっ」と誰もが声を出してしまう最初の品は、まさに“秘密のハート”だ。

SECRETO
洋ナシとミカンとユズのジュース

そして、「今月の一皿」に選んだのは、スぺシャリテの「フォアグラ・フレンチトースト」。液体窒素で凍らせたフォアグラのテリーヌを、フレンチトーストの上に雪のように削り落とす。
〝粉雪が舞いながら山のように重なっていく〞幻想的な景色は、かなり衝撃的だ。付き添うリンゴジャムをピンセットでトーストに載せて口の中に入れると、濃厚なフォアグラの甘みに酸味が雪解けのように馴染んでいく。

薮中シェフ
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〝薮中シアター”は、実に楽しい。食材の組み合わせは時に奇抜でありながら味わいは王道で、しっかりとしたベースを感じさせる。そんなギャップがまた『SECRETO』の楽しみでもある。

シェフの出身地でもある石川県・能登の食材を存分に使う数々の料理は、大人の好奇心を最大限に刺激すること間違いない。食事の最後には素敵なフィナーレがあったり、秘密のバーがあったり。ぜひ『SECRETO』で体験してほしい。

SECRETO

世界一予約が取れない店と評判だったスペインの『エルブリ』でも修業した薮中シェフ。ディナーコースは20,000円(税・サ込み)で、料理とペアリングのドリンクが含まれる。毎月1日12時から2か月先の席の予約受け付けを開始。
予約は、電話かホームページから。秘密のバーは21:00オープン、24:00クローズ

住所:東京都新宿区二十騎町2-23

電話:03-6265-3664

営業時間:18:40ドアオープン、19:00一斉スタート

定休日:月曜、ほか月2日間

*掲載情報は2020年4月号掲載時点のものです。

会員誌『SIGNATURE』電子ブック版 ライブラリ
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