今月の一皿

酢豚ならぬ、酢牛!

写真・長野陽一 文・下谷友康

Photographs by ​Yoichi NAGANO

Text by Tomoyasu SHITAYA

渋谷から青山へと向かう坂の途中。金王八幡宮の大きな鳥居が目印だ。一人でもふらっと立ち寄れる気軽さが魅力のチャイニーズが最近のお気に入り

子どもの頃、お祝いごとがあるといつも中国料理だった。家族が多かったからかもしれない。あの丸い回るテーブルが楽しかった。北京、上海、四川、広東など、素材も味つけも異なるバラエティの豊富さで、今でも中国料理は大好きだ。

そんな中、最近の好みは、少人数でも楽しめる店。『ON the TABLE CHINESE』は、まさにピッタリだ。渋谷にある金王八幡宮の鳥居の真横、ちょっとわかりにくいのがいい。渋谷や青山から近いのにとても静かだ。

店に入ると、大きなカウンターが広がる。奥には4人掛けのテーブルが2つあり、大人数でも楽しめる。おしゃれなメニューを開くと、どれもこれも一工夫二工夫ありそうな料理が並ぶ。

まず、メニューを見ながらスパークリングワインを飲む。オーナーシェフの平賀大輔さんは、ワインのソムリエの資格も持つ。だからメニューとお酒の相性は間違いない。

「キッチンにこもっていると、テーブルの様子がわからない。でも、それでは本当にお客様に楽しんでもらえない」と積極的に動く。どうすればお客様により美味しく楽しんでもらえるかと、おもてなしの心が半端ない。それがこの店の心地よさにつながっている。

さて、肝心の「今月の一皿」は、「酢豚」ではなく「酢牛」だ。甘辛ソースが香る彩り鮮やかな一皿だ。九州の能古島や糸島から届くザーサイやピーナッツもやしなどと共に酢牛が盛り付けられる。美しいソースはザーサイと栃木産のニラソース。ダイナミックかつ繊細だ。

「本日の前菜盛り合わせ」は、とにかく楽しい。「自分が食べたいものを組み合わせています」と平賀シェフ。

「そら豆の煮凝り」「鳥のせせりの棒棒鶏」「おおまさりの中国茶ゆで」「新生姜の佃煮」など、生産者から届いた野菜でオリジナリティを大切にしながら料理する。食材の組み合わせはユニークだが、味はとても正統派だ。

アラカルトの注文も大歓迎とのこと。ラストオーダー直前に一人で駆け込む客も珍しくないという。そんな気軽さがいい。こんなに毎晩来たくなる中国料理店は珍しい。

ON the TABLE CHINESE

フレンチのような食材の使い方や盛り付けは、フランス料理店での経験もある平賀シェフならでは。「黒毛和牛の黒酢炒め」(コースの中の一皿)はその最たるもの。シェフの好物というスパニッシュオムレツも入る前菜の盛り合わせ(1,800円)と飲み物を頼んだ後に、手書きの本日のメニューや定番メニューをじっくりと吟味したい。コースは6,600円~。*価格はすべて税込。

住所:東京都渋谷区渋谷3-2-6 帝都青山ビル 1F

電話:03-5962-7886

営業時間:18:00~22:00(L.O.)

定休日:水曜、第1、3、5日曜

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2024年11月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「酢豚ならぬ、酢牛!」。