今月の一皿

「酸辣湯麺」発祥の名店

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

『榮林』といえば、個人的には軽井沢のほうに思い出がある。子どもの頃に家族で出かけた時、また、時が経ち友人たちと夏休みで行った時、必ずと言っていいほど立ち寄っていた老舗の中国料理店だ。

『榮林』のそもそものはじまりは、昭和23年、東京・赤坂での料亭誕生にまで遡る。『料亭榮林』としての創業だったのだが、その後、昭和31年に「和の雰囲気で新しい中華を」と、『中国料理 榮林』に生まれ変わった。それと同時に軽井沢店もオープンしたのだ。

僕とこの店のご縁はおもしろく、働くようになってから接待などで赤坂本店には何度も訪れた。しかし、その赤坂本店が令和4年に神楽坂に移転。新しい地でのスタートを切った。

一本道を奥に入ったちょっと隠れ家のようなところにあり、ランチなどに訪れると、年配のご夫婦やご婦人のグループ、また若者も多く、華やかな雰囲気に包まれる。アーチをうまく使った温もりのあるダイニングには大きな窓があり、光が存分に入るので昼は明るく、夜は木々に囲まれた落ち着いた空間となる。

「今月の一皿」は、もちろん大定番の「酸辣湯麺(スーラータンメン)」だ。実はこの酸辣湯麺の発祥の地は、中国ではなく赤坂時代の『榮林』だ。女将の内藤友利子さんの説明によると、当時の料理長がまかないで酸辣湯にたまたま麺を入れたのがきっかけだという。おいしい定番メニューの誕生とは、案外偶然で単純なのかもしれない。

さて、僕の酸辣湯麺の食べ方だが、まずは雪のようにきれいな溶き卵のスープを一口いただく。ふわふわの卵に酸味とラー油の辛味が絶妙なバランスで混ざり合う。卵を入れるタイミングや火を止めるタイミングなど、研究に研究を重ねた絶妙な味だ。

ハム、シイタケ、タケノコなど、食材自体はシンプルだが、その独特な味わいにレンゲが止まらない。焼きそばや炒飯などのメニューもあるのだが、ついつい酸辣湯麺をいつも頼んでしまう(笑)。

夜のコースメニューでは、色とりどりの美しい料理が和食器に盛り付けられる。この日は「海老、帆立、チシャトウのピリ辛炒め」が秀逸だった。また、フカヒレの白湯スープも、ぜひ一度は味わってほしい。

老舗は変化をし続けるから老舗であり続けられる。そう感じさせてくれる大好きな店だ。

榮林 神楽坂店

たくさんの人の心と胃袋を捉えて離さない魅惑の酸辣湯麺は、ランチでは単品メニュー(1,430円、トマトトッピング110円)として、ディナーではコースのシメの一皿として供される。「海老、帆立、チシャトウのピリ辛炒め」はコースの中の一皿(ディナーコースは11,000円~)。女将おすすめの20年ものの「古越龍山」は27,500円(1本)。*すべて税込。

住所:東京都新宿区袋町3 神楽坂センタービルANNEX2F

電話:03-5579-8862

営業時間:ランチ11:30~14:00(L.O.)、ディナー17:30~22:00(L.O.)

定休日:日曜と第2・4月曜

*ご紹介したメニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2024年3月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「「酸辣湯麺」発祥の名店」。