今月の一皿

焼き鳥にフレンチの余韻

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

海外から戻ったとき、ふと恋しくなるのは、焼き鳥の香ばしい煙と凝縮された旨みだ。神楽坂のコの字のカウンターには、そんな気分に応えてくれる一本がある

日本全国どこへ行っても、焼き鳥、寿司、焼肉、蕎麦の店には事欠かない。私たちの暮らしに深く根づいた、いわばソウルフードである。それぞれの店に個性と矜持があり、同じ一皿は二つとない。だからこそ飽きることがないのだろう。しばらく海外で過ごし、日本に戻ったとき、和食のありがたさを強く感じるのもそのためだ。

新旧の名店がひしめく東京・神楽坂。海外出張後という和食への渇望を満たすべく、焼き鳥にすることにした。軽子坂を上がり、一本路地に入った先に佇むのが『やきとり鶏弘』である。

店主の高木弘毅さんは、フランス料理店で研鑽を積み、有名店でワインも学んだ経歴を持つ。そのうえで焼き鳥一筋25年という、異色にして確かな実力の持ち主。焼き鳥はシンプルゆえに、素材と火入れがすべてを決める。高木さんは宮崎県産の黒岩土鶏を独自のルートで仕入れ、一本ずつていねいに焼き上げる。その様子を、コの字型のカウンター越しに間近で楽しめる。絶妙な火入れによって、旨みは内に閉じ込められ、外は香ばしく、中は驚くほどジューシーに仕上がっている。

「今月の一皿」として選んだのは、最初に供される「はつもと」と「もも」。はつもとは塩で。しっかりと焼き目がつきながらも、内側はぷりっとした食感と濃厚な旨みを湛える。ももはタレで焼かれ、噛むほどに鶏の滋味が広がる、完成度の高い一本だ。

さらに興味深いのは、テリーヌやパテ・ド・カンパーニュといったフレンチの一皿がコースに織り込まれている点。焼き鳥の合間に挟まることで味わいに緩急が生まれ、最後まで軽やかに楽しめる。なかでも印象的なのが「チキンバーガー」。竹炭のバンズで作られた一品は、野菜とパテの甘みが調和し、思わずもう一つ手を伸ばしたくなる。

締めはラーメンか親子丼。いずれかを選ぶのが普通だが、「両方召し上がるお客様も多いですよ」と高木さん。考えることはみな同じだ。

店主 高木弘毅

ゆとりのある空間で、充実したワインとともに味わう焼き鳥。量が少なめのコースも用意されており、軽く一杯という使い方もできる。神楽坂に、また一軒、足を運びたくなる店が加わった。

やきとり鶏弘

メニューは黒岩土鶏と厳選鶏の串・逸品を味わい尽くす特別コース(全18品/10,000円)と黒岩土鶏と厳選鶏の串を堪能するスタンダードコース(全12品/7,000円)の2つからチョイス。ドリンクはワインから日本酒、焼酎まで、幅広く取りそろえている。 *共に税込。

住所:東京都新宿区津久戸町1-14 ARTS神楽坂 4F

電話:03-6280-8382

営業時間:17:00〜23:00

定休日:日曜

*メニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。
事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2026年7月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「焼き鳥にフレンチの余韻」。