今月の一皿

山と海をつなぐ物語

写真・岡村昌宏 文・下谷友康

Photographs by Masahiro OKAMURA(CROSSOVER)

Text by Tomoyasu SHITAYA

鹿が駆ける山の養分は川を伝い、やがて海へ届く。その自然の循環を表現した一皿。ウニと大麦とミズ、そして鹿。異なる風景を結ぶ物語が料理に息づいている

小田急線の祖師ヶ谷大蔵駅といえば、かつて円谷プロダクションがあったことに由来する「ウルトラマン商店街」で知られる。街のあちこちにはウルトラマンや怪獣のモニュメントが点在し、どこか童心を呼び覚ます風景が広がる。その商店街の一角に『フィオッキ』はある。

 「フィオッキ」はイタリア語で「小雪」や「雪の結晶」を意味する。オーナーの堀川亮シェフが、修業時代にピエモンテ州でお世話になった店の名前からつけたという。

扉を開けるとシェフの本などが置かれた空間が。そしてその先の重厚な木の扉を開くと、レンガ造りのアーチ天井が印象的な空間が広がる。ヨーロッパから取り寄せた家具や調度品が落ち着いた雰囲気を醸し出す。祖師谷に店を構えて26年。細部にまで行き届いた設えからは、堀川シェフの美意識が感じられる。

そんなシェフの料理は、日本各地から届く食材の持ち味を活かしつつ、極力シンプルに調理するのが特長だ。日本ならではの豊かな食材同士を組み合わせて、堀川流に表現する。

 「今月の一皿」に選んだのは、「ウニと大麦とミズのサラダ、鹿のジュレ」。新鮮なウニに、もちもちとした大麦、シャキシャキとした食感のミズを合わせた爽やかな一皿だ。そこに添えられるのが鹿のジュレ。一見意外な組み合わせだが、この料理には堀川シェフならではの自然観が込められている。山に生きる鹿。その森の養分は川を伝い海へと流れ込み、海藻を育て、その海藻をウニが食べる。山と海はひとつの循環の中でつながっている―。そんな自然の営みを表現したのがこの一皿である。異なる食材が響き合いながら、ひとつの風景を描き出していく。

メインはスペシャリテの「仔羊の藁包みロースト」。埼玉の農園から取り寄せる香り高い藁で包み、ゆっくりと火を入れた仔羊は、驚くほどしっとりとしている。やわらかな食感と凝縮した旨みからは、長年磨き上げてきた技術と真摯な仕事ぶりが伝わってくる。

この日の前菜は、「アワビとアスパラの冷製パスタ」。アワビの肝にアーモンドやゴルゴンゾーラを合わせたシェフオリジナルのソースは、肝の臭みはなくまろやかで、アワビの旨みを引き立て、ワインが進む。

オーナーシェフ 堀川 亮

ワインはペアリングコースも用意されているが、自らリストの中からお気に入りの一本を選ぶ時間もまた楽しい。イタリアの風景に思いを馳せながら、シェフの心づくしの料理を楽しみたい。

Fiocchi(フィオッキ)

ウルトラマンの街・祖師谷の、小さいが存在感のある老舗イタリアン。ディナーは18:30からの一斉スタート。12皿からなるシェフのお任せコースは、メインが3種類から選べる。「仔羊の藁包みロースト」と「豚肉の炭火焼き」は24,200円、土佐赤牛の炭火焼きは26,400円。 *共に税込。

住所:東京都世田谷区祖師谷3-4-9 松紀ビル1F

電話:03-3789-3355

営業時間:ディナー18:30〜

定休日:水曜のほか不定休あり

*メニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。
事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2026年8月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「山と海をつなぐ物語」。