今月の一皿

蕎麦を覆う、黄金の誘惑

写真・栗林成城 文・下谷友康

Photographs by Shigeki KURIBAYASHI

Text by Tomoyasu SHITAYA

花街の面影と、新しい店が心地よく交わる

神楽坂・本多横丁の小料理店。

店主の技と遊び心が光る、贅沢なシメの一皿を

古くから続く花街の風情を残しながら、若い世代も集う、神楽坂。老舗の料亭や割烹に加え、フレンチやカフェなども軒を連ねる、東京屈指の美食の街でもある。

その本多横丁に店を構える『酒肴 神楽坂 和』は、カウンター8席と4人掛けのテーブルがひとつという小ぢんまりとした和食店。店主は、「和ちゃん」の愛称で親しまれる鈴木和浩さん。京都や東京の名店で修業を重ねた後、神楽坂に店を開き、今年で8年目を迎える。店主との距離が近く、初めて訪れてもどこかほっとできる空気がいい。料理はおまかせを基本に、遅い時間にはアラカルトでも楽しめる。

「今月の一皿」に選んだのは「金霞蕎麦」。その名のとおり、たっぷりのカラスミを霞に見立て、蕎麦が見えなくなるほど贅沢にまとわせた一品だ。カラスミとの相性を求めてたどり着いたのが、山形の蕎麦。風味豊かな蕎麦粉に山芋を加え、塩をほとんど使わないのが特徴だと、和ちゃんが教えてくれた。カラスミの濃厚な旨みと塩気を、蕎麦の香りが受け止める。酒を楽しんだあとのシメに、これほど嬉しい料理もない。

「季節野菜の炭火焼き 広島の藻塩」も、この店らしい料理だ。豊洲の仲買人から届く旬の野菜を、得意の炭火で絶妙に火入れする。野菜の甘みや香りが最も引き立つ頃合いを見極め、シンプルに藻塩で提供する。

「肉豆腐」もぜひ頼みたい定番。上質な牛肉と豆腐を、昆布と鰹の出汁を含ませた京風の煮汁でふっくらと炊き合わせる。出汁と素材の持ち味を丁寧に引き出した一品だ。馬刺しがあったり、秋には新鮮な秋刀魚を丸ごと味わえたり、状態のよいヒレ肉が登場したり。その日の食材との出合いも楽しい。肩肘張らない雰囲気でありながら、料理にはきちんと四季がある。

店主 鈴木和浩

長野県出身の和ちゃんらしく、日本酒は地元の銘柄も豊富だが、シャンパンやワイン、焼酎まで幅広く揃うのも嬉しいところ。仲間と賑やかにテーブルを囲むのもいいし、カウンターでひとり、ゆっくり杯を傾けるのもいい。

常連客が多い店だが、初めてでも自然に輪の中へ迎えてくれる。その温かな距離感もまた、ここを訪れたくなる理由なのだ。

酒肴 神楽坂 和

香り高いカラスミをたっぷりまとわせた「金霞蕎麦」、滋味深い「肉豆腐」、旬の味覚を楽しむ「季節野菜の炭火焼き 広島の藻塩」は、おまかせコースの一つ(9,900円/税込)から。遅い時間にはアラカルトもある。

住所:東京都新宿区神楽坂4-5

電話:03-6265-3883

営業時間:月〜金曜18:00〜翌2:00(L.O.翌1:30)、土曜18:00〜24:00(L.O.23:00)

定休日:日曜

*メニュー等は取材時のもので、季節によって変更となる可能性があります。
事前にお店にご確認ください。

*掲載情報は2026年11月号掲載時点のものです。

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下谷友康さんが綴るコラム【今月の一皿】。今回は「蕎麦を覆う、黄金の誘惑」。